薬剤師が、AI(人工知能)後の世界でオワコンにならないためのキャリア形成・転職術

薬剤師AI人工知能

ありがちな結論は2パターンだが

AI(人工知能)の導入が薬剤師業界に与えるインパクトについての論考は、これまでにもそれなりの数が発表されているが、最後に落ち着く結論には2パターンあるようだ。

 

1つめのパターンは、人が手を使って複雑な作業を行う「調剤業務」は、人間の薬剤師の手に残るという結論。

たしかに、具体的な「動作」を伴う調剤業務においては、人間の手作業がまだまだ必要であることは容易に想像される。

 

2つめのパターンは、AI(人工知能)が不得意な人間とのコミュニケーションの仕事は、人間の薬剤師の手に残るという結論。

薬剤師の仕事の中で人間とのコミュニケーションが求められる業務としてよく挙げられるのは「服薬指導」である。

 

これらは一見もっともな結論だ。誤りとも思えない。しかし薬剤師がキャリア形成なり転職を考える指針とするには少々心もとない。なぜなら「調剤業務」と「服薬指導」の両方において、すでにAI(人工知能)化とIT化が進んでいることを私たちは知っているからだ。

 

ピッキングだけならAmazonがすでに実現済み

医師の処方に従って、正しい薬剤を正しい数量だけピックアップし、薬袋を正しく作成して患者に渡すだけであれば、

Amazonの物流倉庫で行われていることと何ら変わりがないことは直感的に理解できる。

 

Amazonの物流倉庫では、何万点もの商品がストックされ、客の注文に従ってロボットが商品をピックアップし、

梱包担当者のもとに送り届けている。客が入力した情報に従い送付状が作成され、段ボール箱に貼付される。

 

医師が薬剤を選択して処方箋により指示し、薬剤師が棚から薬剤をピックアップして、用法用量が記載された薬袋に詰め、

患者さんに手渡すのと大した違いはない。

 

いやいや、薬剤は人の命にかかわるものからロボットなどには任せられないという向きもあるようだが、筆者の周りにはまったく逆の意見も多い。人の命にかかわるからこそ、疲れを知らず、いつも誤りなく正確なロボットにやってほしいという人が少なからずいる。

 

調剤ロボットが導入される

2019年2月に朝日新聞や日経ビジネスが報じたところでは、薬局チェーンのトモズが、試験的に調剤ロボットを導入したとのことだ。

これら記事は明らかにしていないが、記事中の写真などから判断すると、導入されたのは株式会社湯山製作所の調剤ロボットのようだ。

 

この調剤ロボットは、錠剤を棚からピッキングするといった単純な作業ではなく、粉薬の1回量包装(一包化)などの作業をしてくれる。

湯山製作所の製品情報によれば、「薬品の選択、秤量、配分、分割、分包といった散薬秤量調剤の全てを機械本体が行います」とある。

 

これらの調剤ロボットを使うと、人間の薬剤師の業務量が20%程度削減できるため、その浮いた時間を人間とのコミュニケーション業務にあてるという。

たしかに、業務量が20%削減されるだけであれば、浮いた時間は人的コミュニケーションにまわされると思われる。しかし調剤ロボットの性能がさらにアップして50%の業務量削減につながったらどうなるであろうか。

仮に10人の薬剤師でこなしていた作業を5人の薬剤師で遂行することができるようになれば、浮いた5人のうち2人程度はコミュニケーション業務にまわるであろうが、残りの3人はお役御免となる可能性がありはしないか。

 

トモズの親会社である住友商事のプレスリリースによれば、将来的には「分包センター」の設立も見据えているとのこと。

分包センターとは、各地域の薬局からの依頼を受け、手間のかかる一包化調剤を大規模な機器で効率的に行い、一包化した薬剤を薬局や介護施設等へ配送を実施するセンターのことを言うが、これが実現すれば、個々の薬局には調剤機能が不要になるか、より小規模で間に合うようになる。そうなれば、雇用される薬剤師の数はぐっと減るに違いない。

 

オンライン服薬指導も、特区から全国へ

AI(人工知能)よりも人間が適切に行うことができる服薬指導などのコミュニケーション業務も、どれだけ人の手に残るかは未知数だ。

 

薬剤師によるオンライン服薬指導は、医師によるオンライン診療にひもづいているから、まだ普及には時間がかかるようにも思える。

しかし仮にオンライン診療が急速に広がることになれば、オンライン服薬指導も急速に広がることとなる。

 

オンライン服薬指導とは、電話による服薬指導であり、薬剤は患者の自宅に郵送される。もしこれが普及すれば、薬剤師が多数常駐するコールセンターが設立されるだろう。

調剤業務において「分包センター」の設立が構想されているのと同じく、服薬指導が「コールセンター」業務となる可能性すらあるということに、私たちは留意する必要がある。もちろんオペレーターは薬剤師の資格者である必要はあるけれども。

 

AI(人工知能)時代の薬剤師、キャリア形成と転職の指針

多くの論考が、「調剤業務」と「服薬指導」はAI(人口知能)に奪われず、人間の薬剤師の手に残ると結論づけているが、控えめに言っても「楽観的」に過ぎるように思うのは筆者だけであろうか。

 

このような劇的に薬剤師をとりまく環境が変化しているなかで、薬剤師はどのようにキャリア形成し、転職をすればよいだろうか。

 

間違いなく言えるのは、トモズにかぎらないが、積極的にAI(人工知能)化に投資を行う姿勢をみせている企業に就職・転職すべきということだ。

 

積極的にAI(人工知能)化を進める企業に就職してしまえば、業務の効率化によってリストラされる可能性が高いのでは?と思われるかもしれない。

しかしながらその発想は間違っていると筆者は考えている。これからの時代は、AI(人工知能)に指示を出せる人材が生き残り、AI(人工知能)と協業するようになる。

いち早くAI(人工知能)に指示を出し、AI(人工知能)と協業するスキルを身につけた人材は、万が一その企業を追われることになっても、他の企業がそのスキルを買って採用するだろう。

 

調剤ロボットが導入された薬局では、すでに薬剤師とAI(人工知能)との協業がはじまっている。

 

この記事を書いた人(著作権者)

佐久間タケシ(薬事コンサルタント、ファーマシス™所属ライター)

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